誤嚥性肺炎後の経口摂取再開について
誤嚥性肺炎後にはできるだけ早期に経口摂取を再開することが望ましい。なぜなら、禁食になることで口腔内、消化管など各機能に影響を与える可能性があるからである。特に口腔内が乾燥することで、細菌が増殖し折角食事を再開しても再度誤嚥性肺炎を起こしてしまうからである。これを避けるためにも、経口摂取再開のポイントがいくつかあるので、それについて以下述べていきたい。
1. 肺炎が改善していること
まずは肺炎の治療を優先する。すなわち肺炎はコントロールされていないことには、経口摂取の再開は考えにくい。炎症反応や発熱、呼吸状態、画像診断などで主治医は肺炎の有無を判断することになる。ここで、最も気を付けなければいけないのは、不顕性誤嚥の有無である。これがあると、誤嚥性肺炎を繰り返す結果につながるので、見落としてはならない。しかし、不顕性誤嚥は外からなかなかわかりにくいので、VEやVF検査など行い、きちんとした診断をしておく必要がある。
2. 専門的口腔ケアを禁食中も再開後も行う
誤解をされている方も少なからずいるが、食べていないからと言って、口腔ケアを行わなくて良い理由はどこにもない。むしろ、食べていなからこそ普段以上に口腔ケアを行わなければならないのである。
禁食中の口腔内は唾液が出にくくなっているので、乾燥している。唾液中には細菌に対する防御機構があり、これにより口腔内が汚染されるのを防いでいるが、禁食中はこの防御機能が働きにくい。また、歯がなくても舌や頬の粘膜が汚染されやすい。この結果誤嚥性肺炎が繰り返される要因になるのである。したがって、専門的口腔ケアを行って、口腔内を清潔にすると同時に、刺激を口腔内に与えることで唾液を分泌しやすくする。さらに経口摂取開始後も継続的に口腔ケアを行っていく必要がある。
以上経口摂取開始の前後は必ず口腔ケアを行う必要があり、それが経口摂取開始のポイントでもある。
3. 意識レベル
食物を取り込んだり、咽頭へ送り込んだりするには自らの意思が必要である。このためには開眼しており、食物を認識できるレベルにないと困難である。したがって、脳血管障害、低血糖、肝性昏睡、肺炎や尿路感染症などで意識レベルが低下した場合には、意識レベルが戻ってから、経口摂取を行うことが重要である。
4. 消化器疾患の有無
経口摂取を含む経腸栄養は、以下の点において経静脈的栄養と比較して優れていることが知られている。①腸管粘膜の萎縮防止、②bacteria translocation(腸内に生息する生菌が腸管上皮を通過して腸管以外の臓器に移行する現象を指す)の回避、③代謝反応亢進の抑制、④胆汁うったいの回避、⑤消化管蠕動運動の維持、⑥カテーテルによる菌血症の回避、⑦長期管理可能、⑧廉価、である。これらの利点を考えると、経腸栄養が第一選択であるが、消化管を中心とした消化器臓器に閉塞などの病変がないことが前提となる。また、禁食が長期間にわたった患者に対しては経口摂取を再開するにあったって、消化管の機能回復を促進させるため、GFO療法(G;グルタミン、F:水溶性ファイバー、O:オリゴ糖)を行うことがある。そのほかに、誤嚥性肺炎の原因として胃食道逆流(GERD)があるが、経口摂取開始前に、この疾患の有無を確認する必要がある。この疾患はもちろん禁食中にも起こりえるが、経口摂取開始が要因となって消化管の蠕動運動が活発になることで、症状が顕著になることがある。このGERDにより胃内容物が咽頭や喉頭まで逆流し誤嚥することが肺炎発症の機序であるが、胃液を含んだ内容物を誤嚥することで、通常の誤嚥性肺炎より重篤なメンデルソン症候群が発症することが知られている。このメンデルソン症候群とは胃液による肺組織の化学的損傷により発症する肺炎であり、通常の肺炎と比較して症状が遷延し、より重篤となる。
また、経鼻胃管が挿入された状態も問題があり、チューブによる喉頭蓋の圧迫や経鼻胃管による唾液誤嚥が主な原因とされるが、誤嚥性肺炎予防のためには長期留置は好ましくない。
5. 栄養状態
禁食が続くと栄養状態が低下し、嚥下機能に影響を与える。低栄養により筋力が低下すると、食事後半に易疲労性が生じ誤嚥リスクが増加する。栄養状態は一般的にはAlbやTPで表わされるが、これらは長期的な栄養指標であるため、短期的にはRTP(急速代謝回転タンパク質)を使用する。RTPには、プレアルブミン、レチノール結合性タンパク、トランスフェリンがあり、それぞれ2日、0.5日、7日程度の半減期であり、短期的な栄養状態を知るにはよい指標である。