薬剤性嚥下障害とは
高齢者になると、様々な薬を服用しているケースが多いと思います。しかし、この薬剤の中には嚥下障害を引き起こすものが数多く存在しています。例えば、向精神薬、抗てんかん薬、抗アレルギー剤などです。
したがって、嚥下障害の病歴と処方されている薬剤に注目し、影響がありそうなものを洗い出すことによって、嚥下障害が改善することがあります。また、処方の内容が長年変わっていなくても、加齢や体重減少などにより、血中濃度に変化がある可能性があることを念頭に置くことも重要でしょう。
処方によって代替あるいは減量が可能な場合もあるので、仮に薬剤性嚥下障害であれば、容易に改善できることがあります。
嚥下障害を悪化させる可能性がある薬剤の代表例
睡眠薬 | ドラール、ロヒプノールなど |
抗不安薬 | セルシン、デパスなど |
抗うつ薬 | トリプタノール、ルジオミールなど |
抗精神薬 | レボトミン、セレネース、ドグマチール、セロクエルなど |
抗てんかん薬 | フェノバルビタール、フェニトイン、デパケン、イーケプラなど |
抗ヒスタミン薬第一世代 | ポララミン、アタラックスなど |
抗ヒスタミン薬第二世代 | ザジテン、セルテクトなど |
抗ヒスタミン薬第三世代 | アレグラ、ザイザルなど |
(医療・看護・介護で役立つ嚥下治療 エッセンスノート 福村直毅著より引用)
嚥下障害の症状に対する投薬で悪化するケース
嚥下障害が原因で出現した症状に対して、かえって嚥下機能を低下させる薬剤が処方されることがあります。
1.食欲不振に対するスルピリド(ドグマチール)に注意
嚥下障害があり適切な食事が出されていない場合や、障害需要の過程で抑うつ、否認に陥っている場合などに、食事量の減少が確認されることがあります。この場合、体重増加を目標としてスルピリドが処方されることがあります。しかし、スルピリドは錐体外路症状(1)や遅発性ディスキネジア、悪性症候群(2)などの副作用のため、高齢者においては慎重に投与すべきであることがわかっています。したがって、スルピリドが投与されている場合には注意が必要です。
(医療・看護・介護で役立つ嚥下治療 エッセンスノート 福村直毅著より)
(1) 錐体外路症状
錐体外路症状というと運動症状を指す場合が多い。錐体外路症状は多くの種類の運動症状があるが、これらは運動過多と運動過少がある。運動過多を呈する症状は、振戦、舞踏運動、片側バリズム、アテトーゼ、ジストニアなどであり、しばしば不随意運動として扱われる。また、運動過少を呈する症状は固縮、無動などであり、パーキンソン症候群でしばしばみられる症状である。大脳基底核を中心とする大脳皮質との神経回路(大脳皮質―大脳基底核ループ)のことを錐体外路と考えてよい。
(「錐体外路症状」フリー百科事典Wikipedia日本語版より引用)
(2) 悪性症候群(神経遮断薬悪性症候群)
主に精神神経用薬服薬下で発熱、意識意識障害、錐体外路症状、自律神経症状を主徴とし、治療を行わなければ死に至る可能性のある潜在的に重篤な副作用である。しかし、未だその原因については解明されておらず、精神神経用薬だけでなく、パーキンソン病治療薬、制吐剤なども悪性症候群を惹起することがある。その発症頻度は、精神神経用薬服用患者の0.07%~2.2%である。
(厚生労働省ホームページより引用)
2.栄養障害からくる皮膚障害に対する抗ヒスタミン薬に注意
嚥下障害はやがて栄養障害に行き着くことが少なくありません。特に長期にわたり栄養状態が悪いと、皮膚炎を生じてかゆみが出現します。このようなかゆみに対し、内服で抗ヒスタミン薬が処方されることがありますが、これにより唾液分泌が低下したり、眠気によって栄養障害に拍車をかけることがあります。したがって、嚥下機能に問題があれば外用薬で対処する必要があるのです。
(医療・看護・介護で役立つ嚥下治療 エッセンスノート 福村直毅著より)