誤嚥性肺炎を予防するための口腔ケア

誤嚥性肺炎は、口腔内の細菌が気管内に流入し、抵抗力と相まって炎症を起こすことが多いと言われています。高齢者を中心とした誤嚥性肺炎の原因となるのは、口腔内固有とも言える歯周ポケット内を浮遊している菌が原因となっています。したがって、口腔内の細菌数を減らすことが重要であり、そのためには口腔ケアが最も有効な手段となります。

口腔の働きとしては、食べ物の取り込み、咀嚼(そしゃく)、唾液による消化と嚥下、呼吸をする際の通り道、味覚、話をするなど様々な働きがあります。口腔の働きが阻害されると、心身への影響が大きくなります。特に、歯周病が進行してくると、心臓や循環器疾患、糖尿病、呼吸器疾患、早産・低体重児出産などに深く関与することが明らかになってきています。

以上のことからも、まず歯周病を予防することが重要であることが理解できると思います。
そして、歯周病予防に一番効果的なのは、口腔ケアです。

口腔ケアとは

口腔ケアという用語は現在、様々な分野で使用されています。
「老年歯科医学辞典」によると、「口腔保健ケア(口腔ケアと同義)」として、「狭義では歯口清掃を指すが、広義には食べ物の摂り方(栄養改善)や誤嚥の防止、唾液分泌促進や摂食嚥下障害のための指導やリハビリテーションなどの機能訓練、あるいは歯科治療までを含む。」とされています。

また、口腔ケアには以下の意義があります。

口腔の健康の維持・増
口腔疾患の予防・治療、口腔機能の維持・向上、口腔感覚の鋭敏化
全身の健康の維持・増進
誤嚥性肺炎等の疾病予防、栄養改善、廃用症候群の防止
生活に与える影響
生活意欲の向上、日常生活リズムの確立、人間(家族)関係の確立
終末期における家族ケア(家族への支援)
患者の苦痛緩和につながる口腔ケアを家族とともに実施

高齢者の口腔機能の重要性 東京医科歯科大学教授 下山和弘 より引用

摂食嚥下障害の危険性 
「顕性誤嚥」と「不顕性誤嚥」

さて、摂食・嚥下障害がある人は誤嚥を起こしやすく、これが繰り返される場合には「摂食嚥下障害」が疑われます。この摂食嚥下障害は、誤嚥性肺炎や窒息、脱水や低栄養の危険性、さらには食べる喜びの喪失をもたらします。口から食べられなくなることにより、低栄養や脱水が出現し、さらにサルコペニアと言われる筋力や筋肉量の低下が起こります。

誤嚥には「顕性誤嚥」と「不顕性誤嚥」があります。顕性誤嚥は「むせのある誤嚥」で不顕性誤嚥は「むせのない誤嚥」です。
就寝時の不顕性誤嚥を調査した報告では、肺炎を起こした高齢者では不顕性誤嚥が高い頻度で認められているようです。高齢者、特にADL(日常生活動作)の低下した寝たきり老人などは、睡眠中の嚥下反射が低下しており、誤嚥性肺炎が起きやすい状況です。そして、特別養護老人ホームなどの要介護高齢者は、一般の高齢者と比較して口腔内の状況があまりよくないことがわかっています。

このような口腔内の状況がよくない高齢者に対して、口腔ケアを行った場合と行わなかった場合の誤嚥性肺炎予防研究では、明らかに口腔ケアを行った方が優位であったのです。

以上からすると、誤嚥性肺炎になりやすい人は、高齢者の中でも不顕性誤嚥がある人で、誤嚥性肺炎予防には口腔ケアが必須であると言えます。