摂食嚥下障害を持っている患者に対しては、様々な職種が関与しています。具体的には、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、管理栄養士、介護支援専門員などです。しかし、職種は違っても、目標は1つであることには変わりありません。それは患者の摂食嚥下障害に対して、現在もしくは将来的にどうしていくかということです。
そのために、各職種が自らの専門的立場から様々な意見を出し合い、それを一人の患者に落とし込んでいく作業が必要になります。その中でも、歯科医師はどのように関わっていく必要があるのでしょうか。

歯科医師としての関わり

摂食嚥下障害には、5期モデル(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)がよく使われます。この中で、歯だけに限って言えば、食塊形成をする準備期が最も深い関わりであり、次に舌を使って咽頭に送り込む口腔期が挙げられます。また、最近では嚥下内視鏡も歯科医師が使用するケースが増加していることから、咽頭期にも関連はあると言えるでしょう。

歯科医師として咽頭前期を把握する

喉の様子

しかし、一般的には歯科医師として準備期及び口腔期の状態像確認のために嚥下内視鏡を使っていることが多いように思われます。つまり、咽頭に流入してきた食物の形状が、その前段階の過程に問題がなかったどうかを物語っていると言えます。したがって、歯科医師としては、この咽頭前期とも呼ぶべき過程までをも把握しなればならないはずです。もし、食物が塊として形成されていなければ、咀嚼に問題がなかったのか、歯はしっかり機能しているのかなどを見極め、精査する必要があります。咀嚼に問題があれば、その原因はなにか、義歯を使用していれば義歯不適合があるのかもしれないし、痛みがあるかもしれません。また、口腔機能低下による可能性も考慮しなければなりません。さらには、食事の形態が咽頭機能と合致していない可能性もありえます。歯科医師には、それらを診察する必要があるのです。

歯科治療のみを優先して進めず他職種連携

以上、歯科医師として、摂食嚥下障害を有する患者への関わりは、内視鏡所見を歯科医師の立場から正確に伝え、口腔内の状況を把握し、必要に応じてう蝕治療や抜歯、義歯や補助装置を修理・製作、もしくは義歯使用の可否を判断および提案することにあります。そして、医師や栄養士、看護師などの意見を取り入れ、総合的見地から治療に取りかかる必要があると言えるでしょう。決して独断的判断で、歯科治療のみを優先して進めてはいけません。これが多職種連携の真髄です。
しかしながら、歯科医師というものを除いて、患者個人の尊厳や背景を最優先し、全人的な診療を心がけることが最も大切なことになります。これは職種という垣根を越えて考えなければならないことであり、関わる全ての人が念頭に置いておかなければならないことでもあります。