誤嚥性肺炎の主たる原因の1つ嚥下障害への対応
高齢化と嚥下障害の増加は切り離せない関係
65歳以上の高齢者数3557万人(2018年)で、総人口に占める割合は28.1%です。これは実に日本人の4人に1人以上が65歳以上です。もちろん65歳以上は全て嚥下障害になるわけではありません。しかし、高齢になればなるほど、嚥下障害になるリスクは高まります。
嚥下障害になると、食事に介助が必要になります。しかも、3食全てなので、介助は長時間になり、しっかりと嚥下障害を診療するには、医師や歯科医師、言語聴覚士などの多職種が必要なのです。
そのため、患者が増えるとそれに合わせて多くのマンパワーが必要となるのです。そして、すべての医師・歯科医師が嚥下障害を診察できるわけでなく、それなりのトレーニングを積んできていないとこの分野を診察することは難しいと言われています。
そのような将来に対し、国の福祉予算は非常に厳しい状況です。歳出は97兆7128億円で、一般歳入は58兆8958億円です。足りない部分は借金で賄っています。今後介護に使われる予算が急激に増えることは難しく、民間の手を借りないことには介護難民がますます増えるのは明らかと考えられるでしょう。
すでに、介護施設も不足しており、家庭での介護が難しい高齢者が入所している特別養護老人ホームの待機者数は減少しているものの充分とは言えません。
さらに、これから団塊の世代の高齢化が加速して進行するので、状況の楽観視はできないでしょう。
この介護問題と嚥下障害には大きな相関関係があると言えるでしょう。特養に入所している方の59.7%に嚥下障害があるとの報告もあり、この施設に入所している約6割が、一人で十分な食事をすることができないということになります。
また、特養以外にも医療機関・介護施設でも、嚥下障害に罹患している患者は、かなりの割合を占めていることは想像できるでしょう。
高齢化に伴い、嚥下障害は急激に増加しており、このペースで増え続けると、十分な医療提供を供給し続けることはかなり難しくなるでしょう。介助や医療が不十分であれば、一人で食べることができない人は、低栄養により嚥下障害が顕著になり、誤嚥性肺炎が必発し死亡率がさらに上がってしまいます。
嚥下障害に対応する人手を増やすためには
これらの懸念事項に対処するにはどうしたらよいでしょうか?
1つには不足する介護施設を増やすことですが、これだけでは根本的解決につながりません。なぜなら、居場所が確保されただけで嚥下障害を診察し、それをアドバイスできる職種である医師・歯科医師がいなければ、介護士などが適切な介助をすることは出来ないからです。
摂食嚥下障害のリハビリのプロである言語聴覚士も、法律の中で医師及び歯科医師の指示がなければ、その腕を生かすことができない仕組みになっています。それほど診査や診断、指示は大切なのです。
日本誤嚥性肺炎予防協会における事業において、なぜ歯科医師を育成することに重きを置いているかというと、歯科医師が摂食嚥下障害のほとんどの部分に関わっているからです。
摂食嚥下障害は5つの過程の中で起こります。
それは、
- 食べ物を認知する先行期
- 食べ物を口に入れて咀嚼し唾液で塊を形成する準備期
- その塊を咽頭に送り込む口腔期
- 咽頭に流れてきた食塊を食道に入れる咽頭期
- 食道にながれた食物を蠕動運動で胃に送り込む食道期
の5つです。
これら5つの過程どこかに障害があるのが、摂食嚥下障害となります。
この期のうち我々歯科医師に関与ししてくるのが、先行期から咽頭期までで、とりわけ口腔期は最も重要な期と考えます。なぜなら、口腔内の状況を把握できるのは歯科医師以外にいないからです。
さらに、耳鼻科医が2.5万人しかいませんが、歯科医師は約10万人、口腔ケアを行う専門職である歯科衛生士は約12万人で、合計約22万人の対応できる人材がいます。患者を診ることができることを考慮しても今後は歯科医師が摂食嚥下障害分野で活躍できることが予測されるのです。